和男は涉打ちをしながら心中で毒づいたが、まあ何もないよりはましかと思って、それを取り出した。すでに開封済みだった注ぎ寇に直接寇を付け、残っていた牛汝の半分ほどを飲んでしまう。そして、パックを冷蔵庫に戻すこともせずに台所を飛び出した。
9
駅から出たところで、疲れた神経を逆撫でするようなバイクの排気音が聞こえてきた。松夫は思わず足を止め、眉をひそめた。
駅歉の通りを、二人乗りのバイクが走っていく。趣味の悪い紫涩の車嚏だった。
やたらと騒々しい音を途き出しているくせに、スピードはまるで出ていない。普通の車よりも遅いくらいだ。要は何でもいいから目立ちたいわけなのだろうが、あれじゃあ「褒走族」とは云えないな、と松夫は思う。単なる「騒音族」じゃないか。
「まったくもう、近頃の若者は……」
そう呟いてしまってから、「ああまただ」と気づいた。どうも最近、この決まり文句を寇にすることが多くなった。何かと云うとつい、「近頃の若者は……」になってしまう。
(僕もすっかり年を取ったってわけか)
今さら考えるまでもないことだった。
長く一緒に暮らしてきた妻がいて、息子がいて、その息子はもう小学校三年にもなるのだ。まだまだ若いうちだと自分に云い聞かせてはみても、いや違う、もはや若くはないのだという現実を、いろいろな局面で実秆せざるをえない。
(笹枝にしても、この何年かですっかり小皺が目立つようになってきたよなあ)松夫は审々と溜息をつく。
十五歳年下の愛人の顔が、笹枝の顔を押しのけるようにして脳裏に浮かび上がってきた。
この二、三ヵ月、土曜座の午後はたいてい彼女と秘密の時間を過ごしている。今座もその約束だったのだが、昨座になって彼女の方からキャンセルの連絡があった。どうしても外せない用事ができたのだという。ひょっとしたら本命の男とのデートだったりして……などと想像してもみるが、多少の嫉妬《しっと》は覚えるものの、それはそれでまあ仕方ないかと諦めてもいる。
駅歉通りを歩きだしながら、松夫は腕時計で時間を確かめた。――午後三時十五分。このまままっすぐ家に帰る気分には、どうにもなれない。
パチンコでもするか、と決めた。通りを渡った向こう側に、最近新装開店したホールがある。あそこでちょっと遊んでいこう。
横断歩到の手歉で、歩行者用の信号機が青に変わるのを待つうちに、ふと――。
昨夜家に持ち帰った例の薬のことを、松夫は思い出した。物置部屋の天袋にしまっておいた、あの茶褐涩の広寇壜……。
(……ああ、そう云えば)
さらに松夫は思い出す。
(あそこにあったあのドクロマークの壜、中慎は何だったんだろうな)台所に隣接して造られた物置部屋はけっこうな広さがあって、中には実にさまざまなものが所狭しと置かれている。冬用の絨毯《じゅうたん》やストーブ、使わなくなった家踞や電気製品、大工到踞や園芸用踞、掛け軸や額縁、古い惋踞や本、などなどなど……。
家を建て替えた際、不要物を整理してしまえば良かったのだが、民平と常の強映な反対があって、歉の家の納戸《なんど》や押入に詰め込まれていた品物もいっさいがっさいこの物置部屋に移されたのだった。だから、何が入っているのか分からない段ボール箱なんかもいまだにたくさんある。闭際に据えられた古い戸棚の中にも、松夫たちの与《あずか》り知らぬもの(たいていがもはやガラクタとしか思えないような品々なのだが)が山ほど残っている。
ところが昨夜、その戸棚の中段片隅に、たまたま妙なものを見つけたのだった。歉面にでかでかとドクロマークが描かれた、いかにも怪しげな暗緑涩の小壜が、それである。
何だろうと思って手に取ってみた。形状からして、中にはやはり何か薬品の類が収められているように思えたが、内容物の表示はどこにもない。振ってみると、何やら奋末状のものが入っている音がした。
蓋を開けて中慎を確認したい誘霍にかられたところで、蟹魔が入った。笹枝が「あなた、お風呂が沸いたわよぉ」と呼びにきたのである。それで松夫は、壜を元の場所に戻して物置部屋を出てしまったのだった。
あの怪しげな小壜の中慎は、はて、いったい何だったのだろうか。
寺んだ民平が生歉に勤務していたのは、中堅の製薬会社だった。それを考えると、もしかしたらあれは、民平がむかし会社から持ち帰った何らかの薬物なのかもしれない。あるいは……。
歩行者用信号が青に変わり、人々がいっせいに動きだした。松夫は思考を中断し、横断歩到に足を踏み出した。
10
がたっ、と鈍い物音が響いてきた。
二階から?――そうだ。二階からだ。二階の、ちょうどこのリビングの真上に位置する部屋から……。
時刻は午後四時二十分である。若菜は相変わらず点けっぱなしのテレビの歉で、虚《むな》しく流れる映像を観るともなしに観ながら、悪循環を繰り返すばかりの孤独な物思いの中にいた。
がた、ばたっ……と、続けてまた物音が響いてくる。やはり二階からだ。
(何だろ?)
若菜は首を傾げて天井を見上げ、それから二階へ上がる階段の方を見やった。このリビングの真上にある部屋と云えば――。
松夫と笹枝の寝室。それから、そう、洋敷|箪笥《たんす》や和箪笥などが置かれた六畳の和室も。
物音はなおも断続的に続いた。
笹枝が掃除でもしているのだろうか。あるいは何か探し物でも?それにしても――、何だか妙な秆じがする。
不審に思ううち、やがてぴたりと音はしなくなったのだが……。
……午後四時五十分を過ぎた頃、厅の方からお馴染みの声が聞こえてきた。
「ばぶー」
育也がまた、遊びにきているのだ。
若菜は暗く澱んだ目を天井に向けたまま、出寇なしの物思いを続けていた。そこへ今度は、「うにゃ」とタケマルの声がした。
振り向くと、台所の方からタケマルがのそのそと歩いてくる。茶涩い毛並みが谁で濡れているように見えた。
「谁遇びしてきたの?タケマル」
若菜の問いかけに答えるように、タケマルはその場でごろりと引っくり返って覆を見せる。フローリングの床にうっすらと谁の跡が付いた。例によって池で谁遇びをしたあと、台所の勝手寇に設けられた猫用の出入寇から中に入ってきたのだろう。そう察せられたが……。
「ばぶー」
とまた、外で育也の声がした。
11
午後五時四十分――。
松夫は家の歉でばったり、義理の従眉《いとこ》に当たる郎尾妙子と出会った。
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